中国国民党大陸復帰論


(上の方が新しい記事です)


   「台湾政局 2006年1月」


 掲示板で「どのメディアより先を行く台湾政局分析!」などと見栄を切ったものの、その後関係者と意見交換してみたら、だいたい同じような考えの方もいらして、それほど新味もなかったようです。その見方とは以下のようなもの:
 昨年の立法院および統一地方選挙での敗北を受けて、陳水扁政権が再び独立志向を強くした背景とは、そして2008年選挙の結果は。まず、2008年選挙については、予測不能としか言いようがありません。2年後の選挙ですから予測などしようもありませんが、ただ「馬英九絶対有利」とは簡単に言い切れない、ということです。なぜか。
 陳水扁再選後、青派(国民党、親民党)に妥協し、対中交流を拡大したり、反日姿勢を容認したりした結果、選挙結果は大敗でした。得票率から言えば立法院ではそれほどの後退はなかったのですが、今年の地方選挙では1993年レベルにまで得票率を下げました。要するに、中間層・浮動票取り込みを狙って中間路線を取った結果、緑(台湾派)の票を大きく取りこぼしたわけです。大雑把に、台湾は3割の緑派固定票、3割の青派固定票、そして4割の中間浮動票があると言われます。さらに4割がほぼ薄緑、薄青に二分されているため、毎回選挙ではギリギリの結果になるわけです。
今回の民進党の失敗と、再度独立色を鮮明にすることで、再び支持率上昇を図っています。その背景を私なりに解説すると、同じ有権者といっても、濃緑と薄緑では、パワーが違う。必要なのは濃緑の人々のパワーであり、彼らの支持を引き出せれば、党が直接訴えなくとも、草の根レベルで中間層の薄緑や薄青をひきつけられる。過去の勝利はそのようにしてもたらされました。以前この欄で述べた、支持の「勢」、いきおいの波を、2008年3月に向けて、これから民進党にひきつけるため、わざと現段階で中間路線を取って敗北するという「演出」を行ったといううがった見方もできるかも知れませんが、そうではないでしょう。単に党内の路線不一致が原因ではないでしょうか。
 ただ、これから独立路線の方向を鮮明化し、3割前後の濃緑を強く引きつけられるかといえば、不安要因はいくつもあります。その一つは新内閣。行政院長に蘇貞昌氏を当てましたが、彼は新潮流派に近く必ずしも濃緑の支持を得られるかは不明。特に文部大臣(教育部長)人事。濃緑知識人に根強い支持のあった反骨の文部大臣杜正勝教授の留任も疑問視されます。その意味でも、今月中に発足する新内閣の顔ぶれに要注意です。ただ新内閣に不満であっても、濃緑が天王山である2008年選挙で、今回の地方選挙のように民進党に「灸をすえる」ことはあり得ない。絶対危険や青に寝返ったりはない。それは3割の青が何があっても民進党に投票しないのと同じ。また、一般に言われているように、馬英九は強い。これは事実で、いくら民進党が成功して追い上げても、馬英九逃げ切りの可能性は少なくありません。とは言っても、2003年ころにはあれほどの人気を誇った宋楚瑜も、急激に人気を落としてしまいました。馬英九の個人人気がいつまで続くのか、これこそが上述の「勢」=波です。波を食い止めるために銃弾まで飛び交うとすれば、どんな事件が起こっても不思議はありません。結論:予測は不能、しかし民進党退潮、馬英九有利という単純なものではない。 〈2006年1月19日〉
(21日23:40追記)新内閣の教育部長に、杜正勝教授留任決定。新内閣が独立路線を緩めないという象徴的な人事と見ることもできましょう。因みに杜教授は、日本にも知己の多い、中国古代史、台湾史の研究者で、前故宮博物院長です。






2005年12月)


 下の文章は、今から4,5年前に書いたものだ。振り返ってみると、その後、一見選挙では、台湾で国民党の力が盛り返しているように見える。さて時間を置いた今、改めてこの問題を考えてみたい。
 まず、下に書いた、大陸への国民党復帰論は、可能性として残されている。そもそも、蒋介石を支援し、日本に対抗し、さらに共産党と戦わせたのはアメリカだ。中国国民党というレーニン型政治団体は、日本や中国共産党よりも先に、アジア・パシフィックにおけるアメリカの同盟勢力であり続けている。それは日本が反米軍国主義から親米民主国家へ、共産党が田舎政党から核攻撃能力を持った超大国そのものへと変身を遂げる前からそうだということだ。そして、中国共産党は不安定である。民主主義でない以上、衝撃吸収能力は著しく低く、国民の不満を集中させてしまう。そしてアメリカに資源争奪戦でも核戦略でも敵対している以上、アメリカという無敵の超大国の極度の警戒を跳ね返すほどの軍事・経済力もない。早い話が、為替が完全自由化されるだけで、共産党はつぶれる可能性がある。中国市場が巨大だというのは、人口が多いだけに過ぎず、彼らが物を買うお金は、だいたいが日本や台湾、せいぜいEUのお金である。為替が自由化され、人民元が高くなれば、直接投資先は中国からベトナム、さらには東欧に逃げる。中国には何も残らない。もともと、プラザ合意を乗り切った日本には、優秀な日本企業があった。血のにじむようなコスト削減、付加価値導入で、自国通貨高という災いを転じて福となしたのである。足腰の強い中小企業が多い台湾も、アジア経済危機を乗り切ったし、韓国は被害を受けたものの、大企業の技術力で地歩を築いている。これと比較したとき、中国にはほとんど、世界市場に伍してゆく力のある優良企業などない。若干のITやエネルギー関係の国策企業があるが、これは政府や軍とのウラのつながりを指摘されており、日本のように熾烈な国内市場を勝ち抜いてきた優良企業とは程遠い。そして、そのような企業はごくわずかなのである。つまり、為替が自由化され、人民元が高騰し、短期投機資金が出たり入ったりするようになれば、資本は逃避し、あの華やかな上海は、敗戦国の都市と化してしまう。そうしたときに、共産党政権が果たして耐え切れるだろうか。日本や台湾に対して戦争に打って出る可能性は高いが、彼此の軍事力を考えれば、負ける可能性はもっと高い。
 さて、繰り返すように、中国には共産党以外、政権の受け皿がない。軍は行政組織ではなく、軍政という不安定な政権は次の政変へのつなぎでしかありえない。宗教団体は近代国家には適さない。民主勢力は怖ろしく弱体だ。そうしたとき、考えられるシナリオは二つに限られる。共産党内クーデターが起き、新たな顔ぶれの共産党(それは親米であるかもしれない)が政権を握り、人間の入れ替えを行う。第二のシナリオは、アメリカの意を受けて中国を支配する中国国民党による支配である。
 アメリカと日本は、アジア太平洋地域の秩序に置いて、基本的には足並みを揃えている。しかし、地政学的に見て、またアジア政治への理解の深さにおいて、若干違いがあるように思われる。
 以下は、現在の筆者の想像であって、なんら読んだり聞いたりした結果ではないことを断っておく。
 アメリカは、恐らく本気で、中国国民党への期待をかけている。しかし、日本はそのような単純な期待は持っていないのではないか。国民党は、決して民主主義を体現できるような政治政党ではない。台湾における1947年の大虐殺の首謀者であり、日本にとっての生命線である台湾の民主化は、国民党への反対勢力である民進党によって実現された。台湾の民主主義を犠牲にしてまで、国民党を中国の代表に温存するほど、日本の考えは現実離れしていないはずである。台湾で民主主義の成功は、「中国」ではない、党外勢力によるものである。2004年選挙を見てみれば分かるが、「中国」にとって、民主主義は相容れない。国民党も共産党も「中国」そのものであり、民主化を実現したのは党外勢力、すなわち「中国的ならざるもの」である。アメリカが、単純な自由と民主主義の妄想に酔って正常な判断力を失っていることを恐れるのである。だから、アメリカと日本の対中国・台湾政策には、微妙な差がある。1972年、日本はアメリカとの調整を怠って、台湾切捨てを行ったため、ワシントンの怒りを買った、と一般に言われている。アメリカが慎重に台湾関係法を整備したのは、アメリカにそれができる政治・軍事上の余裕があったからであり、さらにまた、上記の国民党への期待があったからに違いない。しかし、その後、クリントンを初め、アメリカは公然と何度も、台湾独立に反対している。しかし、日本は違う。台湾独立に賛成せず、「一つの中国」を理解し、尊重し、独立を支持してはいないが、アメリカのように強い反対はしていない。72年には一気に中国よりに振れたが、報道によれば1950年代から外務省は、台湾における本省人革命の可能性を考慮していたとされるし、少なくとも現在は、賢明にもあらゆる可能性を排除していない。
 アメリカのアジア理解が浅いとすれば、恐るべきことだ。アメリカは強いからだ。そうではなく、筆者の国民党復帰論がもはや時代遅れであり、アメリカが国民党などあきらめ、共産党内一部勢力と連携を強めているとすれば、その方がよほど現実的だ。なお、筆者はこのように怖ろしい話については、天地神明に誓って言うが、一切読んだり聞いたりしていない。100%、想像であり、根拠はゼロである。(2005年12月4日)


 



(以下、2000年〜2002年)

 最近、中国における共産党への支持の低下は極めて顕著だ。世論調査の結果を見たわけではなく、私が個人的に観察した範囲だが、もはや支持率10%という雰囲気である。ではもし共産党政権が正統性を失い、下野した場合、どのような組織が中国を運営できるか。軍や情報機関は政治理念を持った政治団体というわけではなく、法輪功も近代国家を運営できるような政治政党ではない。2年ほどまえ、小島朋之先生にそういう話を伺ったってみたが、代替的な組織は「ないですね」。だが、実はある可能性が指摘できる。国民党だ。1997年、長谷川慶太郎氏が岡崎久彦氏との対談で、中国における共産党政権の崩壊以降、受け皿として国民党が考えられる、という視点を示された。これは実に注目に値する見解で、私もそれ以来何人もの中国人から、「共産党はだめだ、だが国民党ならよい」という考えを聞かされた。そして、これは東南アジア研究者などにも意外と知られたことだが、国民党は大陸にかなり浸透している。共産党崩壊後に中国国民党が大陸を統治するというのは、実は中国人民にも日米にも受け入れ可能な案と言える。
 だが現在国民党が本部を置いている台湾はどうか。ここ数日で陳水扁政権の雲行きがますます怪しくなってきており、李登輝派が権力から引き離された後に宋楚瑜その他、国民党を追放された勢力が復党し、国民党再建ということはありうるだろう。だから、宋楚瑜が中華民国総統として全中国を統治するということは現実に起こりうると思う。それが台湾にとって幸福かというと、これはまた別問題だ。台湾国民には選挙で民進党を選択する権利はあるが、それは結局中国とは別の政治体制が維持されなければならない。
 国民党大陸復帰論は、日米・中国人民にとっては望ましいが、結局のところ、台湾問題の解決にはまったくならないだろう。やはり台湾は別個の政治体制として独立を維持しつつ、国際機関への加入等を認め、大陸には共産党以外にも国民党という選択肢を与えて民主化するのが穏当なのだろう。


 

200110月)

 以上の文章は2000年8月ころ書いたものだが、その後随分状況も変化した。第一、国民党の支持率がこの間急速に悪化、ところが最近では宋楚瑜人気の低落に伴い、親民党票が国民党に戻りつつある。宋楚瑜が全中国の総統と上に書いたが、現在ではそれは絵空事になってしまい、むしろ全中国を支配する国民党の総統としては馬英九の方がまだ荒唐無稽ではない、と言えるだろう。だが、その馬英九も、台風の処理ではやや支持を落としている。中国派が国民党馬氏、台湾派が李登輝―台連(総統としては陳水扁)支持、という流れが現在の方向性だ。一年後にどうなっているか、予測もつかない(予測ができるなら、私は投資家になっている)。

 このページをご覧下さる方の中には、検索サイトから「長谷川慶太郎」を検索してたどり着く方が多いようだ。長谷川氏の慧眼には私も日ごろから感服している。上記の本の中で氏が主張していたのは、手許にないので記憶に頼ることになるが、要するに中国本土では共産党革命の時に辛酸を舐めた人々の間になお国民党に対する支持がある。家に晴天白日旗を持っている、というエピソードすら紹介されている、などの点だ。実は、長谷川氏以外の専門家からも、中国における国民党再支配の可能性を聞いたことがある。
 現在この説を検討してみると、台湾における国民党支持の後退、という点が当時では看過されていた。しかし莫大な資産を持った国民党がそう簡単につぶれるとも思えない。中国国民党が全党的に台湾国民党になるのは、なお権力を握る外省人を考えれば簡単ではなかろう。だがやはりこの説が面白いのは、大陸の広大な地域に於いて、国民党から共産党に支配権が移った後、農業集団化などで生産が激減し、飢餓が襲ったという事実を改めて喚起させられる点だ。もちろん、それから既に50年が過ぎ、世代も交替している。直接の記憶は薄れつつある。だが、他に代替的な政治組織の可能性がないという点、中国の軍部等への浸透を考えれば、やはり国民党の存在は無視できない。
 台湾政治を考えたときには、中国政党としての国民党はもはや時代遅れになりつつある。台湾における国民党の中国アイデンティティ教育は、現在30代以上、日本植民地経験世代以下の人間以上においては本省人においても一定の影響力を持っているが、全体の流れは台湾化である。この傾向は少なくとも、中国が米国に対し、軍事的に米国にかなりの程度脅威を増し(ICBMや核技術)、また経済的にも更に力をつけるであろう2005年以降までは、進んでいくと予測されている。それまでに、立法院の選挙が約2回、総統選挙が1回。米国大統領選挙が1回。中国がどうなるのかは分からない。この間にもし日本が改憲されるとすれば、米国からの政治的な独立性は長期的には高まるから、「周辺」地域へのスタンスも変化するかもしれない。

[Aoki Atsushi, Sat. 12 Oct, 2001]


あらためて中国市場について考える〜

2002年1月)

 ということをのんびり書いていたら、12月の立法院選挙でついに国民党が退廃を喫した。やはり、現地にいないものの弱みで、ついつい国民党を日本の自民党と同様に考えていたようだ。一方、やはり12月だったと思うが、毎日新聞が、中国の一部知識人の間では、共産党体制を、中国の国体として経済成長持続のためには維持すべきである、との認識さえある、という記事を載せていた。さすが毎日新聞、上記のような見解に、楽観的過ぎるとの警鐘を鳴らしたのであろうか。しかしこのことは裏返せば、中国では経済成長が国民の不満を吸収している現状が変化したとき、政治的にも影響があるということになろう。意外と知られていない事実だが、建国以来、人民共和国は平均9%近い高い経済成長を維持してきた。それはケ小平改革開放政策以前、195060年代を含めてそうなのである。驚く方もいらっしゃるかもしれないが、これは事実であって、むしろ、最近の7%云々という数字は、かなり低下してきたと言っていい。1989年の天安門事件の時も、背景の一つとして、需要膨張に対するモノ不足があった。共産主義体制は民主主義に対して国民の不満を吸収しにくいことからすれば、再び経済危機が生じたときに、不満が体制に対して向かうのは避けられまい。
 もうひとつ。WTO加盟とも相俟って、多くの企業が競って中国に進出している。私は以前、中国へ長期滞在して、中国社会が如何に日本と違う、異質な社会かを身をもって体験していたから、1990年代の中盤に何も知らない日本企業が相次いで中国へ投資している現状をみて、決してうまく行くとは思わなかったし、事実多くが悲惨な目に遭って撤退を余儀なくされた。しかし、ここへ来てまた大規模投資が進んでいる。無論WTO加盟決定に伴って、投資環境が改善したことがある。10年前には想像しがたかったが、現地の労働力の質が向上し、原材料・部品の納入も容易になったようだ。しかしそれでも、私は決して中国投資が容易だとは考えない。日本文化と中国文化は水と油であって、利益があがっているうちは問題ないのだが、トラブルが生じたときの損害(そして精神的苦痛!)は筆舌に尽くし難い。そして最終的には個別のトラブル以外に、政治的変動、通貨変動があるかもしれない。

[Aoki Atsushi, Sat. 05 Jan, 2002]

 


 

米軍による、対イラク戦争が迫っているという。報道によれば、これは始まりに過ぎず、親米であるサウジの王室支配を改造し、イランのイスラム指導者たちの勢力を削ぎ、中東全体にエジプト並の民主主義を実現させる計画があるという。アメリカは名(民主主義)実(軍事)ともに世界の盟主となり、石油の安定供給も実現される。トム・クランシーの想像力をも遥かに超える、大構想。さらに、北朝鮮は震え上がり、中国はおとなしくなるだろう、というのが岡崎久彦氏の見通しである。

ただ、民主主義化しても、短期的に状況が好転するとは限らない。イスラム世界では原理主義政党が票を集め、中国ではナショナリズムの爆発に歯止めが効かなくなるかもしれない。

 








 




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